【声明】日本学生支援機構による各大学の「奨学金延滞率」の公開に強く抗議する

2017年05月08日 14:33

【日本私大教連執行委員会が発表した声明を掲載します】



日本学生支援機構による各大学の「奨学金延滞率」の公開に強く抗議する


2017年5月2日


日本私大教連中央執行委員会

1.日本学生支援機構(以下、機構)は4月19日にホームページ上で、「学校毎の貸与及び返還に関する情報」と称するサイトを開設し、個別学校の「延滞3か月以上の者」の数、「過去5年間の貸与終了者に占める各年度末時点で3か月以上延滞している者の比率」等(以下、延滞率情報)を公開した。このことに対し、私たちは機構ならびに所管官庁である文部科学省を厳しく糾弾する。

2.機構が同サイトに掲載した「情報公開の目的」には、「各学校と機構が連携・協力し」、返還意識の涵養や、返還負担軽減策の周知など「在学中の指導を徹底することが何よりも大事」との前置きをしたうえで、今般の「情報公開」について「各学校と機構との連携・協力による取組の成果を広く社会に明らかにすることを通じて、独立行政法人として納税者たる国民の皆様への説明責任を果たすとともに、各学校におけるこれらの取り組みを支援することを目的としています」との説明がされている。ここからどういう理屈で個別学校の延滞率情報を公開するという結論が導き出されるのか。まったくもって支離滅裂と言わざるを得ない。

  この「目的」に沿うならば、機構が丁寧に説明すべきは、機構が各学校との連携・協力を強化するためにどのような取り組みを行っているのか、延滞を防止するために各学校にどのような働きかけをしているのか、それらをどう評価・総括し、どのような課題があると認識しているのかということであろう。これらの情報は同サイトに一切掲載されていない。

そもそも奨学金の返還延滞が長期化する理由は、卒業後の「低所得」はじめ経済的困難が圧倒的である。このことは機構自身が「奨学金の返還者に関する属性調査結果」として公表しているところである。延滞の主たる原因が、非正規雇用の増大など雇用環境の悪化による低収入や、返還者やその家族の諸事情による生活困窮にある以上、「在学中の指導を徹底する」ことでの延滞防止効果がごく限定的であるのは当然である。各学校で返還猶予制度を周知することや、いわゆる借り過ぎを防止する取り組みを行うことは重要であるが、それらの取り組みの強弱と各学校の延滞率との間に直接的な相関関係がないことは自明である。機構は、あたかも大学における「在学中の指導」が不十分なことに延滞の主要な原因があるかのように印象づけているが、それは問題の所在を誤魔化すものでしかない。

したがって、個別学校の延滞率情報を公表することに何ら積極的な意味を見出すことはできない。それどころか、意味を有しない比較可能な数値が独り歩きすれば、各学校や卒業生に対する不要な偏見や誤った評価を生みだし、日々教育活動に精励する個別学校の名誉を毀損することは必然であろう。ひいては、奨学金制度の社会的意義そのものを損ねることになりかねない。

事実、機構が「情報公開」した翌日には、『東洋経済オンライン』(東洋経済新報社)が早々と「全大学「奨学金延滞率」ランキング」なる記事を掲載している。記事は、延滞率情報が「"失敗しない大学選び"をするための重要な判断材料になることは間違いない」と評している。すでに同記事の閲覧者のコメント欄には、個別私立大学や私立大学生を揶揄したりバッシングしたりする声や奨学金をムダとするような論調があふれている。こうした事態を引き起こした日本学生支援機構と文部科学省の責任はきわめて重大である。

  私たちは日本学生支援機構と文部科学省に対し、直ちに個別学校の延滞率情報の公開を停止し、当該サイトを閉鎖することを強く要求する。

3.言うまでもなく、「教育を受ける権利」は基本的人権であり、教育の受益者は社会全体である。したがって国は国民に対して「教育の機会均等」を保障する義務を負っている。奨学金制度は本来、高等教育においてその義務を果たすための重要な基幹的方策として位置付けられるべきものである。

しかし周知のとおり、日本の公的奨学金制度は、先進諸国の中でも際立って後進的である。給付型奨学金が今年度からようやく創設されたものの対象者はあまりに少数で、日本は依然として諸外国と比較して学費負担が突出して高く、かつ公的な経済支援は貸与奨学金という名のローンが圧倒的部分を占める国である。とりわけ私立大学については、日本の大学生の8割近くの教育を担っているにもかかわらず、国の公財政支援はきわめて乏しい。私立大学生一人当たりの公財政支出は国立大学生のわずか13分の1に過ぎない。そのために私立大学は学費収入に依存せざるを得ず、非常に高額な学費は放置されたままになっている。その結果、多くの若者が多額の奨学金を借りなければ大学で学ぶことができない状況に置かれているのである。延滞問題も、政府のこうした政策を背景として生じている構造的問題である。

奨学金制度に対する社会的批判が高まる中、政府はようやく無利子奨学金の拡充や、新たな所得連動返還型奨学金制度の導入等の返済負担緩和策を進めるなど、制度改善に着手しはじめた。現在の返還者についても延滞金賦課率の引き下げや減額返還・返還猶予など「救済制度」の改善が不十分ながらも進められつつある。

いま、可及的速やかに実現すべきことは、これらの施策をいっそう拡充するとともに、奨学金制度の抜本的改善を図ることである。とりわけ、給付型奨学金の対象者・給付額を拡大すること、いまなお多数を占める有利子奨学金を無利子化すること、所得連動返還型を有利子奨学金にも導入するとともに、現返還者も対象とすることが緊急的に求められる。

加えて、政府が2012年に国際人権規約の高等教育無償化条項の留保を撤回し、漸進的に無償化に向かうことを国際公約したことを踏まえれば、まずもって私立大学の学費を引き下げるための実効ある具体的施策に着手すべきである。私たちは政府・文部科学省に対し、これらの政策実現を強く求めるものである。


以 上